※前回のあらすじ
今回は、前回までのストーリーを一旦離れて、ハチロウの過去の物語を展開します。
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エピソード_35 「祖父」
薄暗い部屋。小さな工場の建屋のような造り。
波打つスレートの壁には、いくつものひび割れや、インクの跡が見える。
明滅するモニターの前で、ぶつぶつと何か独り言をつぶやく、老いたインクリング。分厚いレンズの、いわゆる牛乳瓶底メガネに、長く伸びた白い眉がかかっている。口元を、短いひげが白く覆っている。わざわざ生やしているわけではなく、何日もひげを剃り忘れてしまったような、無造作に生えた無精ひげである。
老人の後ろにある作業台には、様々なブキの部品や、インクを入れたバケツが雑然と置かれている。中には、組み立て途中のブキもあり、何本もケーブルが伸びて、箱形の機器に接続されている。
部屋の扉が開き、逆光でシルエットになった人影。小さな子どもだ。
「じいちゃん」
子どもが老人に呼びかける。
「ハチロウか、ここは危ないから来ちゃいかんと言っただろう」
「おれ、ここ好きだから」
「仕方ないのう……誰の血を引いたんだか……机の上の物には触るんじゃないぞ」
「うん」
老人は、幼いハチロウのほうに目をやることもせず、モニターを見つめながら話している。
ハチロウもそれに慣れているのか、勝手に部屋に入り、壁際の棚に置いてあるものや、机の上にあるものを嬉しそうに眺めている。
「じいちゃん、とうちゃんはどこ行ったの」
「んん?とうちゃんはな、仕事で地上に行ったんじゃ」
「ちじょう?」
「ここより明るいところじゃよ」
「ふーん」
「おまえも地上に行きたいか?」
「知らない」
「しら……そうか、地上がどんなところか知らなきゃ、行きたいかどうかもわからんじゃろうな」
「うん」
しばらく沈黙が続く。老人はモニターを見つめ、ハチロウは老人の肩越しにモニターを見ている。
「あっ!」
老人が突然、驚きの声を上げる。
「わっ!」
その声に驚いたハチロウが、後ろにのけぞった拍子に、机の上にあったバケツに手があたり、インクが派手に飛び散った。
「すまんすまん、びっくりしたのう」
老人はようやくモニターから目を離し、椅子から立ち上がって振り向いた。
「びっくりした」
ハチロウはさほどびっくりした様子もなく、落ち着いた表情で答えた。
「インクがこぼれてしもうたか。やれやれ、片づけんとな……」
机の上で倒れたバケツと、床に広範囲に飛び散ったインクを見ながら、老人は部屋の隅の掃除道具を取りに行こうとした。しかしふと立ち止まり、改めてバケツとインクを見る。
「ん?……んん?これは……面白い!」
ハチロウは、老人が何を面白がっているのかわからない様子で、老人の代わりにモップを取りに行く。
「ひらめいたぞ!ハチロウよ、面白いもんが出来上がりそうじゃ!」
「なに?」
「新しいブキのアイデアじゃ。おまえがバケツを倒したおかげでな」
「ふーん」
「これは今までのブキの常識を破る、ブレイクスルーじゃ!」
「へーぇ」
何もわかっていないハチロウは、適当に返事をしながら、床に広がったインクをモップでふき取っていた。
老人――――マツカサ・ヒロキは、ハチロウのことなどすっかり忘れてモニターの前に戻り、キーボードを叩き始めた。
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幼いハチロウと生活していた老人、マツカサ・ヒロキとは一体何者?
次回未定!
※登場するキャラクター、設定などはスプラトゥーン公式とは無関係です。