雪の積もる閉ざされた気持ちは
いつか暖かい陽射しで解けるよ
めげずにチャレンジしますショートショート。たくさん書いていれば、そのうちいいものが書けると信じて。
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怪物が現れた。
ジャックたちは死に物狂いで逃げたが、仲間たちが数人、怪物に喰われてしまった。平和だった日々に突然現れた怪物は、ジャックたちの暮らしをことごとく破壊していった。
怪物はジャックたちより何倍も体が大きく、力も強い。力の弱いジャックたちには、とうてい歯向かえる相手ではなく、ただ逃げ惑うしかない。
「昨日はオータがやられた。今日はヤクシーまで……このままじゃ私たち、大人になる前に皆殺しだよ」
ようやく怪物の追跡から逃れた後、マージャが涙ながらにつぶやく。
「ジャック、私たちはただこうしてあの怪物に食べられるだけの運命なのかな……」
ジャックは唇を噛んだまま虚空をにらんでいたが、マージャの言葉に我に返った。
「そんなバカなことがあるもんか。俺たちは必ず大人になって、怪物を倒すんだ。そしてみんなでまた平和な暮らしを取り戻そう」
数日後、マージャが姿を消した。
ジャックたちは、マージャも怪物に喰われたのだと思い、みんなで追悼の儀式を行った。しかし、その夜ジャックが休んでいると、草陰からマージャの声がした。
「ジャック……私よ、マージャよ」
「マージャ!怪物にやられたんだとばかり思っていたよ」
「私……私、なんだかおかしいの。体が大きくなってきたのよ」
「それはもうすぐ大人になるってことじゃないか。姿を見せてくれよ」
少しの沈黙。草陰の向こうで、かすかにマージャの動く気配がした。
「でもね、本当に変なのよ。体から、おかしなものが生えてきてるの」
「おかしなもの?」
「そう、体の横から、なんだかあの……みたいな……尻尾も短くなってきたわ」
「尻尾が……?きっとそれも大人になるための変化なんだろう」
「そうかしら……そうだといいけど」
「とにかく無事でよかった。顔を見せてくれマージャ」
しかし草をかき分けて現れたのは、あの怪物の顔だった。
「あっ……おまえは!バカな!」
「ああ……ジャック、やっぱり私は変なのね?」
「本当にマージャなのか?」
「そうゲロ……よ、私、マージャよゲロゲロ」
「そっ、その鳴き声は、怪物と同じじゃないか」
「うそ!そんな……私、怪物じゃないゲロ」
「そんな……俺たちは一体……うわぁぁぁ!」
ジャックはパニックに陥り、マージャの声で話す怪物から逃げようとした。
マージャだった怪物は、咄嗟に口から長く伸びる舌を出し、ジャックを捉えると一瞬で飲み込んでしまった。
「ああ……ジャック、なんてこと……そんなつもりじゃなかったのゲロゲロ」
怪物はゲロゲロと嘆きながら、水田の草むらへと消えていった。
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田んぼから賑やかな合唱が聞こえてくる季節です。動くものならなんでも食べようとする彼らの悲しい性を思うと、あの合唱も哀調を帯びているように聞こえる……かもしれません。
ではまた!