心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

エリア6(シックス) -3-

制約

 

 今日も寒い一日だった。仕事から帰り、スウェットに着替えて、テレビをつけた。手を使わずに。テレビは問題なくついた。念力でリモコンのボタンを押したからだ。カラーボックスの上に乗ったフィギュアをひとつ、念力で持ち上げてみる。簡単に浮いた。使える。おれには念力が使えるのだ。しかし、仕事の休憩中に灰皿を持ち上げようとしたときには、灰皿はぴくりとも動かなかった。

 おれが灰皿をにらみつけているのに気づいて、同僚が怪訝そうな顔で灰皿を取ってくれた。その場は適当に冗談でごまかしたが、内心はかなり落胆していた。やはり期限付きの能力だったのか?あるいはニンジンのような、野菜とか、有機物だけに有効な能力なのか・・・まさかニンジンしか動かせないってことはないだろう。完全に念力が使えなくなったのか、それとも何かの条件を満たさないと使えないのか・・・いろいろな可能性を考えながら、家路に着いた。

 そこでひとつ思いついたのが、場所の制約だ。もしかしたら、部屋では使えても、それ以外の場所では使えないのではないか。それで、試しに念力でリモコンを操作してみたというわけだ。これで、有機物だけに有効という条件は消えた。同時に、部屋でしか使えない可能性が強くなった。それを確認するため、手近なボールペンを念力で持ち上げたまま、部屋の中を歩き回ってみた。問題は、外に出たらどうなるかだ。

 サンダルを履いて、玄関のドアを開けた。ボールペンがおれより先に外に出たが、その時点ではまだ浮いている。おれの足が一歩外に出た途端、糸が切れたように落ちた。ということは、やはりこの念力はおれが部屋の中にいる時しか使えないらしい。しかも、おそらくは自分の部屋限定。なんという狭い範囲。これでは外で友達に見せるとか、テレビに出てスタジオで披露するなんてこともできないわけだ。念力を見せたければ、相手を自分の部屋に呼ぶしかない。自分の部屋でしか使えない念力とは・・・なんと器の狭い能力だ。人に見せたところで、何か仕掛けがあると思われるのがオチだ。

 それでも、使えないよりはいい。部屋の中限定ということで割り切れば、いろいろと便利な能力ではある。それに、使っている間に能力が強化されて、徐々に範囲が広がっていくとか、別の能力が目覚めたりするかもしれない。せっかくだから、使えるものは使い倒すことにしよう。