男の人なら 他にもいます
だけどあなたは 特別な人
CSで放送されてたのを録画して観たんだけどね。公開当時、ネットでコマーシャルを観て、ちょっと気になってた作品なんだよね。
監督はポール・バーホーベン。SFファンの俺は『トータル・リコール』や『ロボコップ』、『インビジブル』あたりを思いつく。っていうかそれ以外は知らない。だから、SF以外で彼の作品を観るのは初めてだね。
初っ端から、主人公のミシェルがレイプされる場面から始まる。ミシェルはそのあと、何事もなかったかのように振舞うんだけど、話が進むにつれてその理由がわかってくる。
とくに説明的なセリフやシーンはなくて、淡々と描かれる主人公の生活から、いろいろ複雑な問題を抱えていたり、巻き込まれたりしていることが見えてくる。そういう問題への対処の仕方が普通じゃない、ミシェルという中年女性の内面を描くところが、この作品のキモなのかな、という印象。
冒頭のレイプに始まり、出来の悪い息子の結婚、自分が経営する会社内部の問題、会社内での不倫、レイプ犯からの監視、別れた夫との関係、母親との関係、そしてミシェルの人生に重い影を落とす父親。
とにかく、次から次へと、これでもかという勢いでてんこ盛りの問題が発生して、それが全部同時進行するもんだから、観てるほうは頭の中がごちゃごちゃしてくる。
彼女の父は、彼女が10歳の頃に無差別殺傷事件を犯して何十年も服役してる。事件当時、マスコミのネタにされたり、警察からもあれこれ聴取を受けたことで、マスコミを憎んでいるし、警察を信用していない。レイプ被害を届け出なかった理由はそこにあるんだな。
またその事件が、彼女の人生を重苦しく困難なものにしていて、父親への強い憎しみに繋がっている。
物語の終盤、若い男と結婚すると言っていた母親が、脳梗塞で亡くなってしまう。その遺言に嫌々ながらしたがって、服役中の父親に面会を申し込むのだけど、娘からの面会の申し込みを知った父親は、おそらくそれが理由で自殺してしまう。面会に行った当日、刑務所の副所長からそれを聞かされて、遺体と対面するんだけど、ミシェルはあくまでも取り乱さない。
だけど、その出来事をきっかけに、ミシェルはそれまで抱えていた秘密、嘘を次々に周囲にバラしちゃって、関係を清算していこうとする。父親の死が、彼女の中にあった憎しみの焦点を失わせたということなのかな。そこらへんから、急にミシェルの中で何かが変わったんだな、というのがわかる。
最後はビジネスパートナーのアンナという女性と仲良く暮らす?みたいな終わり方なんだけど、社内不倫してたのはそのアンナの夫(恋人?)で、ミシェルはそれも自らバラしている。アンナもかなりショックを受けていたはずなのに、最後まで主人公と一緒にいようとする。
途中、交通事故でケガをしたしたとき、アンナがミシェルの家のベッドで一緒に寝ていて、そこでちょっとレズビアン的な匂いを醸し出していたのだけど、たぶんアンナはミシェルに対してそういう気持ちがあるってことだろう。でも男のパートナーがいて、ミシェルと姦通していたことにショックを受けていた。
アンナとしては、男の不義に対するショック、相手が友人として慕うミシェルだったことへのショック、そしてミシェルへの友達以上の気持ちが裏切られたというショックと、もういろんなショックがごちゃ混ぜになってたはずで、よく気持ちの整理がついたな、と思う。映画の中で、彼女が一番マトモで、一番気の毒な人、みたいな気がする。
ストーリーは、ミシェルという女性を軸に進んでいくのだけど、本当にいろんなことが起こるから、どこに焦点を置いて観たらいいのかわからなくて、最終的に「ええ~……これでいいの?」みたいな気分になる。
映画の中で、はっきりしたメッセージや起承転結を観たい人には、あんまり向いてない作品かもしれないな。はっきりしたことは何も言わないけど、観る人それぞれが何かを読み取ってくれよな、という姿勢の作品だと思った。
まぁ、そんな感じですわ。以上。