心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

アニメ鑑賞記『ID:INVADED』個人的には人生のオールタイムベストに入る作品

 先月からAmazonプライム会員になり、気になっていたけれど本放送で見れなかったアニメをぼちぼちチェックしております。

 その中で近年稀に見るハマり具合だったのが『id:INVADED(イド:インヴェイデッド)』です。

 ※以下、ネタバレありなのでご注意ください。

 本放送前のチェックで、キービジュアルやあらすじを見て「まぁ、面白そうではあるけど、攻殻サイコパスの焼き直し感は否めないな」と勝手に想像してしまい、チェックリストから外していました。(これについては、作品の紹介文を書いた宣伝部の人(?)が悪いと、勝手に人のせいにしています。)

 しかし、実際に観てみると、攻殻サイコパスのような電脳ものではなく、人の意識や精神と、それらを通じて謎に迫る過程に重きを置いた筋立てで、そこにアクセスするツールに関する細かい描写や設定は見せず、単なる道具として扱われています。サイバーパンクよりはサイコサスペンスに属する物語のように思えます。

 物語の重要な要素としては、連続殺人鬼と、彼・彼女らを裏で操る黒幕「ジョン・ウォーカー」。空間に漂う殺意「思念粒子」とそれを検出する機器「ワクムスビ」。思念粒子を基に、個人の深層意識をなんらかのテクノロジーで電子的に再現した世界「イド」。イドの構築とそこへのアクセスを可能にする装置「ミヅハノメ」。そして主人公であり捜査官であり、本人も連続殺人者である鳴瓢秋人(なりひさごあきひと)と、彼がイドの中で扮する名探偵・酒井戸(さかいど)。

 ガジェットの名前を日本神話から持ってきているところに、厨二心をくすぐられます。

 ミヅハノメを使って連続殺人の捜査にあたるのが「蔵」という組織で、イドに潜入した酒井戸をサポートし、推理と捜査を進めるのが「井戸端」と呼ばれるメンバー。これまた面白いネーミングです。

 イドに「投入」された鳴瓢は、記憶を失った状態で目覚めます。そしてイドに必ず登場する少女の死体を見た瞬間、自分は名探偵・酒井戸であり、その少女の名が「カエルちゃん」であり、自分は彼女の死の謎を解くためにここにいる、ということだけを思い出します。イドにいるカエルちゃん。「井の中の蛙」にかけたんでしょうか。

 全編を通して、一番グッと来たのは、第10話「INSIDE-OUTEDⅡ」。イドの中から、さらにもうひとつのイドに潜った酒井戸は、そこでなぜか鳴瓢に戻り、殺された妻子と共に過去の時間を過ごします。徐々にその世界になじみ、まるでそこが現実であるかのように錯覚していた鳴瓢ですが、もう一人の名探偵・聖井戸(現実では本堂町)が外からやってきて、そこが現実ではなくイドの中のイドだということを思い出させます。

 かつての幸せな生活に浸っていた鳴瓢が、現実との狭間で葛藤に苦しむところに、胸を締め付けられる思いがしました。

 仮想現実をまるで現実のように錯覚し、そこで現実の自分とその目的を忘れてしまう。昔話にありそうな展開ですね。あるいはフィリップ・K・ディックの「トータル・リコール」を思い出します。

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 映画の話ついでに、この作品でもうひとつ思い出した映画があります。

 連続殺人鬼のひとり、通称「アナアキ」は、人の頭にドリルで穴を開けて殺すのですが、彼自身も何者かに穴を開けられ、奇跡的に死を免れた人間です。後半、彼も名探偵・穴井戸として捜査に関わるのですが、のちに数唱障害(この字で合ってるかどうかわかりませんが、Wikipedia強迫性障害の項に「数唱強迫」というものがあったので、おそらくこれだと思います)であることが明らかになります。

 とにかく数を数えてしまうという症状なのですが、数への異常な執着と、ドリルで頭に穴を開けるという部分で、1998年の米映画「π(パイ)」を思い出しました。主人公は、世界のあらゆる現象を予測可能な数列を、自作のスパコンで導き出しますが、やがてその数列に憑りつかれ、ラストでは鏡の前で自分の頭にドリルで穴を開けてしまいます。日本での公開当時(1999年)、名古屋シネマテークへ観に行きました。

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 映画の話ではありませんが、さらにもうひとつ。アナアキと本堂町とのやり取りで、頭に穴が開いたことで、本来の自分に戻れた気がする、という内容の会話がありました。ここで、自身の体の一部が不要なものだと感じ、切り落としてしまいたいという欲求に駆られるという「身体完全同一性障害」の話を思い出しました。実際に手や足を切り落としてしまい、それで精神的な安定を得たという人の話を、昔どこかで読んだ記憶があります。

身体完全同一性障害 - Wikipedia

 作品を観ていて、いくつか思い出したことを書いてきましたが、物語のラストはきちんと盛り上がり、きちんと収まっていて、とくにモヤッとしたものを残さない、綺麗な終わり方だったなと思いました。個人的に、一番の見どころは10話なので、ラストはおかしなヒネリやどんでん返しもなく、スッキリした終わり方で良かったと思います。もしかしたら続編もありや?という含みも残されていて、そこら辺もぬかりない作りになっていました。

 いやこれマジでめっちゃいいアニメです。私の人生の名作リストに名を連ねました。(※あくまで個人の感想です)