心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

夕暮れ時の空に見る異次元

時は夕暮れ

 仕事帰り、車を運転していると、いつも走っている道路の両側に広がる、見慣れた街並みが、いつもとは違った景色に見えました。

 夕暮れ時、日没まであと30分くらいの時間帯、空の色が特別なものになる瞬間があります。紳士服の店の、大きな看板越しに、その特別な空が見えました。

 見慣れた道、見慣れた街、見慣れた景色。それが、特別な空の色を浴びて、特別な景色になりました。こんな景色だっけ?と思うのですが、それはいつも通りの景色。ただ、いつも通りの景色を通して異次元が見えるような気がします。

 交差点に止まっていたほんの数瞬、その時、その場所にしかない雰囲気を感じました。雰囲気というか、そこに見える景色が自分にもたらす感覚というか……それは見えているもの、聞こえている音、嗅いでいる匂いなどとは別の感覚で、それを表す言葉を私は知りません。

 それはおそらく二度と味わうことのない感覚で、思い出すことのできない何かです。思い出すことができないから、もし再び味わったとしても、自分にはそれが二度目だとわからない。だから二度と味わうことがない感覚なのです。

 明日、あるいは似たような気候の日、同じ時間帯に、同じ場所に行っても、その感覚は生まれないでしょう。なぜかそう思います。この先、あの場所で感じた何かに出会うことは二度とないだろうと。

 それでも、ある時、ある場所で感じた何かがある、という記憶だけは残ります。五感とは別の何か。シックスセンス?それともセブンセンシズ?あるいは……いえ、わかりません。あれを言葉で表すことは、私にはできません。

 しかし、あれを感じるとき、私は自分が普段、いかに何も見ていないか、いかに何も感じていないか、ということに思い至ります。自分の思考の反響しか聞いていない心。そこにふっと入り込む異次元の感覚。それが自分にとってどんな意味を持つのか、それもわかりません。

 ただ、それを感じるとき、私の心は静かな感動に震えるのです。

夕暮れ時はさびしそう

夕暮れ時はさびしそう

 
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