心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

公園で出会った、ちょっと発達が遅れてる感じのタカシくんの話

 毎朝、息子を保育園に送っています。その保育園の給食のおばちゃんの中の、おそらくチーフ的な、管理栄養士と思われる人がいるんです。その人が岡田斗司夫氏にそっくりなので、僕は勝手に「岡田さん」と心の中で呼んでいます。ただ、僕の言う「そっくり」は、人様から見るとあまりそっくりではないそうで、彼女のことを岡田斗司夫氏に似ていると思うのは僕だけかもしれません。

 朝、顔を合わせれば挨拶くらいは交わします。それ以上、会話に発展することはないからまず大丈夫だと思いますが、もしも彼女とひょんなきっかけで世間話でもするようになったら、うっかり「岡田さん」と呼んでしまいそうです。そうなることはまずあり得ないんですが、万が一のことを考えると、もう彼女を「岡田さん」と心の中で呼ぶのはやめたほうがいいのかな、とも思ったりするごくまです。

 さて、例によって本題はタイトル通りです。先週の土曜日は台風前の好天でした。少し離れたところにある大きめの公園に車で出かけて、息子とシャボン玉遊びをしました。少々風が強かったものの、以前別の公園で買った、電池のいらないシャボン玉マシーンで順調にシャボン玉を飛ばして遊んでいました。

 しばらく遊んでいると、アニメのキャラがプリントされたバッグに、おもちゃをいっぱい詰めた小学3年生くらいの男子が来て「あー、シャボンだー」と言いつつバッグをその場に放り出して、息子の出すシャボン玉を手で割ったり、口に入れたりして遊び始めました。

 見た目年齢のわりに言葉遣いが幼く、適当に単語を並べたような短いセンテンスで喋るので、発達に遅れがある子なのかなという印象を受けました。やがて、僕と息子が座っている正方形の広いベンチに自分のバッグを持って来ると、ミニカーを並べ始めました。そのミニカーに名前シールが貼ってあったので、その子の名前がタカシ(仮名)であることがわかりました。そのミニカーで息子の興味を引こうと思ったのかもしれませんが、息子はシャボン玉遊びに夢中でガン無視。タカシくんは息子が持っているシャボン玉マシーンに強く惹かれたようで、自分もやりたいと言い出しましたが、息子には全く貸す気がないようなので、代わりに普通の口で吹くタイプのストローとシャボン液を貸してあげました。

 タカシくんは、しばらくの間それで遊んでいたものの、すぐに飽きてきて、シャボン玉道具を入れた息子のカバンの中を勝手に物色し始めました。その時点で「おいおい」と思いましたが、まぁ子供のやることだし、精神的にはまだ5~6歳くらいなのかなと思い、何も言わずに見ていました。シャボン玉マシーンは息子が持っているものしかなく、やはりそっちのほうがやりたいようで、またしつこく貸してとねだり始めました。

 息子は頑として譲りません。僕も「ちょっとだけ貸してあげたら?」と声をかけましたが、まったく聞く耳を持たず。そのうちタカシくんが無理やり取り上げるのではないかと内心ヒヤヒヤしながら見ていましたが、そこまではしませんでした。しかし、シャボン玉マシーン用のシャボン液容器の周りに自分のミニカーを並べたり、遠回しな妨害工作を始めました。息子はそれに対して文句を言いながらも、シャボン玉遊びを続けていました。

 とうとう、タカシ君がそのシャボン液容器をミニカーのトラックの荷台に載せて動かそうとした拍子に、容器を倒してシャボン液を全部こぼしてしまいました。これには息子もマジギレ。「やめてって言ってるのになんでそういうことするの!」と怒って、泣き出してしまいました。

 タカシくんはきまり悪そうな顔でモジモジしています。僕は「タカシくん、こういう時はなんて言えばいいかわかる?」と聞くと、タカシくんは「ごめんなさいでした」と謝ったので、思ったほど自制の効かない子じゃないんだなと思いました。息子はそれ以上何も言わずにムスッとしていたので、容器にシャボン液を足してやると、またシャボン玉遊びを再開しました。

 タカシくんは、自分のおもちゃをそこに広げたまま、別の場所で遊んでいる少し年上の男の子たちのグループに、強引に交じって遊び始めました。ただ、そのグループには受け入れてもらえなかったようで、すぐに戻ってきて、また息子の出すシャボン玉で遊び始めました。

 その頃、また別の男子たち(2人兄弟)がやって来て、息子の出すシャボン玉で遊び始めたので、その兄弟も交えて、しばらくは4人で楽しく遊んでいました。しかしその平和も長くは続かず。あとから来た兄弟の弟くんが、タカシくんのおもちゃに興味を出して手に取ると「これは僕のだから!触らないで!」と怒り出したので、結局その兄弟ともギクシャクしてしまい、やがて兄弟はどこかへ行ってしまいました。

 また息子と2人になったタカシくんは、シャボン玉遊びに飽きたらしく、今度は息子をしきりに滑り台に誘ってきました。しかしうちの息子はハマりだすとなかなか飽きないタイプ。タカシくんの誘いには全く応じません。どこまでもマイペースボーイ。諦めたタカシくんは、1人で滑り台のほうに遊びに行ってしまいました。

 それきりタカシくんが戻ってくることはなく、息子もシャボン玉に飽きて家に帰ることになりました。帰り際、滑り台付近にタカシくんの姿を探すと、他の小さい子たちに混じって1人で滑り台で遊んでいました。

 正直、タカシくんに対する僕の第一印象はあまり良いものではなく、息子の周りでシャボン玉を割ったり、おもちゃのヘリコプターを持ってきてちょっかいを出したりする様子を見ながら、ドキドキしていました。シャボン玉マシーンを取り上げたりしないか、いきなり叩いたりしないかという不安がつきまとっていました。これはタカシくんの発達が遅れているという認識と、そういう人全般に対する偏見からくる恐怖心だと思います。

 そういう人の中には、いきなり殴りかかってくるような人も実際にいると聞いたことがあります。ただ、そこまで自制が効かない人はたぶん一人で外を出歩けないし、付き添いの人が一緒に行動するはずだと思います。本当のところはよく知りませんけど。

 だから、タカシくんがそれなりに自制の効く子供だとわかるまでは、腹の底にずっと恐怖心がくすぶっていました。何かが起きた時、自分はどう対処すべきか、万が一息子が叩かれたりした時、自分のほうが感情を抑えられるか、タカシくんを怒鳴りつけないか、殴らずにいられるかどうか、もし殴ってしまったら……そんな考えが頭の中に浮かんでは消えました。

 幸いにもタカシくんは年齢のわりに心が幼いだけで、特に乱暴な性格でもなかったわけで、そんな子供を偏見の目で見て、ビクビクしていた自分をちょっとだけ情けなく思いました。とは言え、今後タカシくんのような子供とエンカウントした場合に、今回のような偏見や不安は持たないようにします、なんてベタに偽善クサイことは申し上げられません。ただ、自分の偏見によって相手の子供を不用意に傷つけたりしないように気をつけよう、とは思いました。

 ある種の人たちに対する偏見を取り除こうと思うと、実際にその人たちとある程度深い付き合いを持たなければ無理だと思いますが、僕はそういう機会に恵まれていませんし、機会があったとしても、付き合いを深めるために割ける時間も、生活のゆとりもありません。だから僕の中の偏見を取り除く見込みは今のところないわけですが、少なくとも偏見に基づく発言や行動は慎まないとな、と思う次第です。

 というわけで、今日はこれにて失敬。