心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

野良猫フミちゃん

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鶴も亀もわらびも

みんな変わる 動いてる

 ウチの近所に生息している野良で、フミちゃん呼ばれている雌猫がいます。

 白と茶のぶちで、かなり高齢と思われます。野良なので、飼い猫より老けて見えるのかもしれません。

 アパート周辺に出没するのは不定期で、毎日のように見かける時期もあれば、何ヶ月も見ないこともあります。野良なので、どこかで野垂れ死にしちゃったのかなと思っていると、ふと現れたりします。

 一時期、お腹が大きく膨らんでいたことがありますが、高齢のため妊娠の可能性は低く、しかも半年ちかくその状態だったので、何かの腫瘍か、寄生虫の類ではないかと思っていました。どこかでケンカしたのか、目の上に大きな傷もありました。

 それからしばらく見かけなかったので、とうとう死んじゃったかなと思っていましたが、またひょっこりと現れて、駐車場や道路の脇でくつろいでいるのを見かけるようになりました。その時にはお腹の腫れはすっかり引いて、普通の体型に戻っていました。ただし、お腹の皮はたるんでいて、だらーんと垂れた状態でした。

 それから2年ほど経ち、フミちゃんも最近は目に見えて老け込んできました。路地の真ん中でくつろいでいて、車が目の前に近づいても逃げなかったり、目が悪くなっているようです。

 フミちゃんは野良ですが、近所の人にも顔が知れていて、そこそこ人馴れしているため、エサをやる人もおり、いわゆる地域猫的なスタンスで生活しています。私も実家の猫にやるためのおやつを、たまにフミちゃんに分けてあげたりします。以前は警戒して近寄ってこなかったのですが、最近は私に慣れたのか、それともボケてきているのか、あまり警戒せずに近寄ってくるようになりました。

 この間、スティック状のマグロのおやつをフミちゃんにあげました。小さな粒状のエサだと、目が悪くて地面に落ちたものをなかなか見つけられないので、直接手からあげられるものをと思って買ってきたのです。

 マグロスティックを手に持って差し出すと、反対の端をフミちゃんが咥えて引っ張ろうとしました。しかし、フミちゃんがスティックを咥えた状態で顔を後ろに引いても、あまり抵抗を感じません。妙だなと思ったら、どうやらフミちゃんの前歯が全部抜けているらしく、スティックが歯に引っ掛からないので、引っ張ることができないようでした。

 しかたなく、スティックを小さくちぎって地面に置きました。フミちゃんは匂いでエサの位置を探りつつ、残った奥歯で一生懸命マグロ味のスティックを噛んでいました。それでもたぶん、ほとんど噛めずに飲み込んでいたと思います。

 ハミハミと、かすかな咀嚼音を立てながら、必死でエサを食べるフミちゃん。痩せた背中に浮き上がる肩甲骨を見ながら、ちょっと切なくなりました。

 自分も、人生の折り返し地点を過ぎて、老いというものを意識せずにはいられない年になりました。身の内から湧き出る、わけのわからない衝動や焦りに苛まれることもなくなりました。若いころには疎ましかったそれらが、今は懐かしく感じます。

 まだまだ若くありたいと、それなりに体を鍛えてはいても、頭髪が薄くなることも、シワや白髪が増えることも、近くが見えなくなることも、あきらめて受け入れている自分がいる。むしろ、肉体よりも精神的な老化のほうが進んでいるかもしれません。

 老いていくことも、いずれ死を迎えることも、今はそれほど恐れていませんが、それもまだしばらく先のことと高を括っているからでしょうか。

 フミちゃんが、自らの老いを意識することがあるのかどうかわかりませんが、歯のない口で懸命にエサを食べるフミちゃんを見ながら、そんなことを考えました。

 それでは本日も、お粗末さまでした。

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