ペンデュミオンの螺旋

めぐるめぐる季節の中で あなたは何を見つけるだろう

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【ショートショート】失くした右手

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きんのフライパンぎんのフライパン: きんのおの ぎんのおの より (ウルトラかいじゅう絵本“せかい名作童話編”)

きんのフライパンぎんのフライパン: きんのおの ぎんのおの より (ウルトラかいじゅう絵本“せかい名作童話編”)

 

 

 喜び 悲しみ 繰り返す人生の

 たった一度の今日を駆け抜け 目指す虹の彼方

 

*****

 少年は、小さな船で漁に出ていた。

 数日前から父親が病にかかり、床に臥せっているため、代わりに漁に出ているのだった。幼いころから父親と一緒に船に乗り、大きくなってからは漁の手伝いもしていたので、獲れる魚の量こそ少ないものの、それなりに成果は上がっていた。

 その日は、いつもと同じように夜明け前から海に出て、同じ漁場で網を投げていたが、ほとんど魚が獲れなかった。天候が悪いわけでもなく、少年はなぜ魚が獲れないのか不思議に思い、いつもより長く漁場にいた。やがて東の空が明るみはじめ、太陽が水平線を離れても、少年は漁をやめなかった。

 しかしそれでも成果は上がらない。やがて少年はその日の漁をあきらめ、最後の一投で切り上げることにした。投げた網を引き揚げていると、急に網が重くなった。少年の力で持ち上がる重さではない。しかし網が取られては明日から漁ができない。迷っているうちに、水面から大きなサメが顔を出し、少年の右腕を肘から食いちぎっていった。

 少年は激痛に気を失いかけながら、もやい綱で右上腕を縛り、左腕だけで櫓をこいで岸に戻ろうとした。出血で体温は奪われ、痛みで意識は朦朧とする。その時、目の前の水面が光り始めた。水の底から、光るものが浮かんできているようだった。

 水面を割って現れたのは、美しい人魚だった。人魚はその両手に、光り輝くものを持っていた。

 「少年。あなたが落としたのは、この金の腕ですか、それともこちらの銀の腕ですか」

 「ち……違います。私の腕は金でも銀でもなく、普通の肉の腕です」

 「正直者よ。あなたにはこの金の腕こそがふさわしい」

 「いやちょっと待って……」

 少年はそのまま気を失ってしまった。

 気がつくと、船は桟橋について、もやい綱で繋がれていた。少年が自分の右腕を見ると、サメに食いちぎられたはずの腕が元通りになっていた。それは金の腕ではなく、もともとの少年の腕だった。そして船には、いつもの3倍はあろうかという量の魚が積まれていた。

 数日後、父親が病から回復すると、少年はそれまでの仕事の褒美として、少しの小遣いをもらって、街へ出かけた。少年は、その小遣いで好きな本を買うつもりだった。本屋の手前まで来ると、建物の間の狭い路地から、わらわらと街の不良たちが出てきた。

 「おい、こいつ村の漁師の息子じゃねぇか?なんで貧乏人が街へ来てるんだろうなぁ」

 「いや、ちょっと本を買いに……」

 不良たちは笑い出した。

 「貧乏漁師が本なんか買ってどうするんだよ。漁師は漁師らしく、海で魚を獲ってりゃいいんだよ。金なんかいらねぇんだから、こっちへよこしな」

 少年が手に持った財布を、不良のひとりが奪い取ろうとした刹那、ふいに風を切る音がして、不良はどうと倒れた。

 「こっ、こいつ、何しやがった!?」

 「何か持ってるかもしれねぇ、気をつけろ」

 他の不良たちは、少年を取り囲んで抑え込もうとしたが、少年に近づいた者から次々と倒れていった。

 ほんの数秒後には、不良たちは全員、少年の足元で気を失っていた。

 「ぼ、僕は……一体……」

 その時、本屋の店先でこちらを見ていた恰幅のいい男が、少年に近づいてきた。

 「君、ちょっといいかな」

 「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃ……」

 「いやいや、違うんだ。ちょっと私の話を聞いてくれないか」

 少年は近くの喫茶店で、男と話をすることになった。

・・・・・

 数年後、少年はボクシングの世界チャンピオンの座をかけて、王者に挑戦するリングに上がっていた。人々は、彼の放つ一撃必殺の右ストレートをこう呼んだ。

 「黄金の右」と。

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 童話や昔話には、長いあいだ語り継がれてきた物語の強さがあるので、ネタにしやすいですね。
 ではまた!