心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

【ショートショート】第三の透明人間

f:id:go_kuma:20180512221723p:plain

 あなたが笑ったり飛んだり大きく驚いたとき

 透き通る気持ちでちゃんと応えたいのさ

 今日は、自分にしては上出来なアイデアを思いついたので、早速書いてみましたよ。

*****

 T博士は、東鳴大学の特任教授で、専門は光学迷彩である。

 光学迷彩といえば軍事用途を中心に考えられがちだが、彼の研究は高層ビルの中層階を透明にし、日照問題を解決することを主な目的としていた。

 光学迷彩とは、光学的な技術を用いて、視覚対象を透明化することである。SF作品などでは、登場人物を透明人間のように見えなくするスーツなどが描かれる。

 第一の透明人間は、人間そのものを透明化することで不可視化する、物理的透明人間だが、これはあくまで空想上の存在である。第二の透明人間は、現代の光学技術によって実現すると考えられる。

 T博士は、光学迷彩の研究成果の影で、本当の情熱を傾けていることがあった。それが、第三の透明人間を実現することである。そのことを最初に知ったのは、助手のK氏だった。

 「博士、要件というのはどんなことでしょうか」

 「K君、実は私の最も重要視する研究テーマは、光学迷彩などではないんだ」

 「えっ……でも、博士の研究成果は世界の最先端を行くものではありませんか」

 「それはあくまで表向きの研究。いわば隠れ蓑だよ。私が目指しているのは、透明人間を作ることなんだ」

 「なんですって」

 K氏は、博士の正気を疑った。

 「私は正気だよ。透明人間といっても、本当に人を透明にするのではない。見えなくするのだ」

 「それは光学迷彩とは違うのですか」

 「全く違う原理だ。私の研究は、ある特殊な電磁波を人の脳に照射することで、意識から消すのだ。目には見えているのだが、意識から見えなくなるのだ」

 「なんですって!それで要件というのは」

 「うむ、まさにその脳科学迷彩とでもいうべき装置の実験台となってもらいたいのだよ」

 「それは、脳に何らかの障害が……」

 「大丈夫だ。それは私自身が実験台となって、問題ないことがわかっている。照射装置を取り付けた物体が見えなくなることも確認済みだ。しかし、この装置をつけた人間が見えなくなるかどうかは、私一人では確認できないのだ」

 「確かに」

 「では、引き受けてくれるのかね」

 「私がその装置をつける側なら引き受けましょう」

 「装置の効果を確認できるなら、どちらでも構わんよ」

 早速、脳科学迷彩装置をK氏の体に装着し、スイッチを入れると、K氏の姿は博士の目から完全に見えなくなった。

 「おお、見えない、確かに見えないぞ。K君、ちょっと私の肩を叩いてみてくれ」

 「わかりました」

 K氏の声と共に、トントンと肩を叩かれる感触があったが、彼の姿は見えない。

 「次は、机の上のボールペンを持ち上げてみてくれないか」

 すると、ボールペンがひとりでに宙に浮いた。

 「すばらしい!ついに脳科学的透明人間の完成だ!ありがとうK君」

 しかし、K氏の返事はない。

 「K君……K君?どうしたんだ、返事をしてくれたまえ」

 かすかな物音に振り向くと、部屋のドアが開いていた。

 「彼奴め、持ち逃げしたか!」

 博士はK氏の後を追おうとしたが、すぐにあきらめた。

 「まあいい。あれはまだ試作品だ。電源もすぐに切れるだろう。もし彼がスパイで、あの装置が他人の手に渡ったとしても、あれだけでは解析できまい。このホストコンピュータがなければな」

 T博士のデスクの上にあるホストコンピュータは、対象に合わせて電磁波を最適化するためのソフトウェアが作動していた。

 翌日、K氏が警察に捕まったという連絡がT博士の元に入った。

 「なんと情けない……まだスパイのほうが良かったくらいだ」

 駅のホームでの痴漢行為が、防犯カメラに映っていたのである。

*****

 いかがでしたか。今回は、わりとうまく話がまとまった気がします。 

 ではまた!

透明人間 (アルバムバージョン)

透明人間 (アルバムバージョン)

 

 

透明人間

透明人間

 

 

透明人間 [完訳版] (偕成社文庫)

透明人間 [完訳版] (偕成社文庫)