つのだせ やりだせ あたまだせ
あと1カ月ほどで梅雨の季節ですね。
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今日は休みだから、朝はゆっくり起きた。
食べるものが何もなかったので、近くの喫茶店へモーニングを食べに自転車で行くことにした。コーヒーを一杯頼むと、サラダとサンドイッチとゆで卵とパスタがついてくる。朝食には十分な量だ。
田んぼの間を通る農道を走ると、その先にぽつんと喫茶店がある。もう11時近いが、あの店は一日中モーニングサービスをやっている。一日中やっているのにモーニングとはこれいかに。
道中、ほんの数メートルだけ用水路と並走する場所がある。そこへ差し掛かった時、道の真ん中に、でかいカタツムリがいるのを見つけた。
そのまま避けて通り過ぎようと思ったが、タイミング悪く、向こうから農家の軽トラがヨロヨロと走ってくるのが見えた。このままだとあの軽トラに踏みつぶされそうだ。
仕方なく自転車を降りて、そのでかいカタツムリをつまんで、用水の脇の草むらに置いた。それから自分も道の端へ寄って、軽トラが通り過ぎるのを待ってから自転車に乗り、200mほど先に見えている喫茶店に向かった。
喫茶店で昼食を兼ねた朝食をとり、家に戻って撮りためたテレビ番組を観ているあいだにまた眠くなってきたので、そのまま寝てしまった。
気がつくと、今朝行ったばかりの喫茶店の前にいた。そう思ったが、よく見ると喫茶店ではない。おかしな形の家だ。最初は喫茶店に見えていたはずだが、今は丸いトンネルのような建造物に見える。やがてトンネルの中からナメクジが出てきた。
「昼間は助けていただいてありがとうございました」
「俺はナメクジを助けた覚えはない」
「私はかたつむりです」
「なるほど」
どうやらそいつは今朝助けたカタツムリらしい。
「助けていただいたお礼に、面白いものを見せて差し上げましょう」
「そうこなくっちゃな」
「どうぞ我が家へお入りください」
トンネルのようなものは、カタツムリの家らしい。言われてみれば、巻貝に見えなくもない。入り口から中へ入ると、トンネルの先はどんどん狭くなっている。腰をかがめて進んでいくと、不思議なことにどんどん奥へ入っていく。入り口から見た時は、途中で体が入らなくなるだろうと思うほど、奥が狭く見えたのだ。
ぐるぐると螺旋を描くように進むと、だんだん暗くなる。周りの壁が見えなくなりそうな暗さになったとき、先のほうに明かりが見えた。出口のようだ。
外へ出ると、そこは俺の部屋だった。振り返ってもトンネルはない。俺はどこから入ったのだろう。足元には俺が寝ている。テレビがつけっぱなしだ。そうだ、テレビをつけたまま寝てしまったのだ。
俺は俺を揺り起こそうとしたが、触ることができない。俺はだらしなくいびきをかいて寝ている。人には見られたくない姿だ。俺だって俺のこんな姿は見たくなかった。どこからか、カタツムリの声が聞こえる。
「戻る時は、耳から入ってください」
一瞬、意味がわからなかったが、どうやら俺の耳から入ると元に戻れるらしい。しかし、俺は俺と同じ大きさだというのに、どうやって入るのだろう。俺の耳をのぞき込むと、なぜか耳の穴の暗闇にどんどん引き寄せられて、あたりが真っ暗になったと思った途端に目が覚めた。
俺は俺の部屋で寝ていて、テレビがつけっぱなしだ。
不思議な体験だったが、さほど面白くはなかった。カタツムリの恩返しも大したことなかったな。
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耳の奥には、蝸牛と呼ばれるカタツムリのような形の器官があるそうです。
ではまた!
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