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【読書感想文】虎よ、虎よ!(わが赴くは星の群)【古典SFを読む】

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 久しぶりの読書感想文は、アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』(ハヤカワ文庫SF・中田耕治訳)です。

 文庫のカバーに書いてある梗概を読んで受けた、ぼんやりした作品の印象、あるいは物語の輪郭と、実際に読んでみた内容があまりにもかけ離れていて驚きました。しかし読み終えた後に再度その梗概を読むと、当たり前の話ですが、自分が受けた印象ほど作品の内容とかけ離れてはいませんでした。なぜか、最初にその梗概を読んだときに私が受けた印象は、もっと静かで、渋くて、シリアスな物語という感じでした。たぶん「古典だから」という勝手な思い込みが紛れ込んだんでしょうね。

 実際のところ、この作品は最初からバタバタしていて、切羽詰まっていて、息詰まるようなギリギリの展開が繰り広げられる物語です。まるで映像作品を小説化したような、そんな印象。まさにハリウッド映画を「読んで」いるような感覚です。

 この落差に、最初は少しとまどい、正直に言えばちょっとがっかりしました。私がこの作品に期待していたのは、こんな派手な、騒がしい物語ではなかったからです。古典SFにしては、あまりにもハードで、あまりにもエンタテインメントな冒険活劇だったからです。

 しかしそのがっかり感とは裏腹に、私はめまぐるしく展開し、収縮し、爆発するその文章と物語の勢いに引き込まれていきました。主人公ガリヴァー・フォイルは、自身に襲い掛かる過酷な運命に抗い、復讐に燃え、成長し、自罰意識に苛まれ、やがて悟りの境地とでも言うべき心境に至ります。

 この小説世界における「発達障害」を抱え、向上心もなく、夢も希望も持たず、単純な肉体労働に日々を費やす、今で言うところの「底辺」を這いずり回るだけの人間だったガリヴァーが、死の淵から生還することによって自らの可能性を驚異的なまでに押し広げ、何度も死線をくぐり抜けて、人類の行く末をも左右する存在となるその道程は、単なる冒険活劇の枠に収まらない深みを、この物語に与えています。

 最後の章を読んでいる時、不思議な共時性を体験しました。最近こんな増田を読んでブックマークしていたのですが……

『時計じかけのオレンジ』は何が凄いか

つまり何が凄いのかわからなくても楽しめるのが凄いってことなのかな。

2018/01/14 19:54

 ここで言われている「自由意志」が、この『虎よ、虎よ!』のラストにも登場したのです。アメリカの作家の作品なので、これは『時計仕掛けのオレンジ』で言われている(キリスト教における)「自由意志」と同じものを扱っていると見て間違いないでしょう。

 物語のラストでガリヴァーは、世界を支配してきた資本家や権力者と議論します。世界を破滅させる物質の秘密を、大衆に知らせるべきか否か。支配者と被支配者の区分をなくし、全人類、世界が自らの意志で行く末を決めるべきかどうか。その議論に突如として加わり、ガリヴァーに示唆を与えるのが、故障してプログラム通りの受け答えができなくなったロボットでした。

 自由意志を持たないはずのロボットが、皮肉にも世界の行く末を左右する議論に道筋を示す。そこに答えを見出したガリヴァーは、かつて自分が属していた被支配者たち、民衆に、世界の行く末を決めさせるための行動を起こし、最後は胎児のように瞑想と恍惚の眠りに落ちます。まるで『2001年宇宙の旅』で、スターチャイルドとなったボーマンのように。発表された年代はボーマンのほうが後なんですけどね。

 ハリウッドアクションなみの派手な展開がいつまで続くのかと思っていたら、終盤にかけてあれよあれよという間に折りたたまれ、宗教と信仰というテーマに収束し、静謐なラストを迎える。カバーの梗概を読み、物語を読み始めた時と、読み終えた時、私は良い意味で二度、この作品に裏切られました。

 やはり名作は名作と呼ばれるだけのことはあるんだな、という気持ちの良い納得感を得ることができました。

 毎度おなじみWikipediaによると、感情の高ぶりと共に顔に浮き出る模様は『仮面ライダー』、加速装置は『サイボーグ009』、思念によるテレポート「ジョウント」は『仮面ライダーカブト』他、後代の様々な作品に流用されるなど、SF界に与えた影響は計り知れません。

 意外にもこれまで映像化されたことはないそうです。企画としては何度も持ち上がっているようですが、実現には至っていないとのこと。映像化しやすそうな作品なのに、不思議ですね。

 ということで、本日はこれまで。

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)