ペンデュミオンの螺旋

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【創作】果てしない旅路【短いお話】

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 夢の中で、ユシカは村のはずれに流れる小川に沿って歩いていた。その道をたどると、小さな祠に辿り着くはずだった。しかし夢の中ではその祠があるはずの場所には祠がなく、代わりに大きな岩が立っていた。河原に落ちている円く平らな石を大きくしたようなその岩は、半分が地面に埋まっていて、やたらと滑らかで、黒かった。

 ユシカが岩の表面に触れると、見たことのない文様が次々と岩肌に現れては消え、その文様が伝える物語が、ユシカの心に流れ込んできた。

 眠りから覚めたユシカは、その物語を思い出すことができなかった。

 


 

 春が訪れ、小川にメダカの群れが姿を現すと、10体ほどの生産者たちがやってきて田んぼに稲を植え始める。プラントで作られた苗床をカートに積んで、入れ替わり立ち代わり、1週間ほど休みなく働き、村のすべての田んぼの田植えを終える。彼らが田植えをしている姿を横目に見ながら、ユシカは小川に続く道を歩く。

 半年ほど前から続く、不思議な夢のことを思い出しながら、祠への道を進む。後ろから誰かがついてくる気配がしたので振り返ると、生産者のひとりがユシカの後ろについて歩いてくる。彼らが生産活動と関係のない行動をとるのは、ユシカにとって初めて見る光景だった。少し驚いたが、その珍しい行動が面白くなって、ユシカはそのまま歩き続けることにした。

 軌道索を移動する光照体が、その光量を減じながら西へ沈んでいく。あたりが暗くなり始めると、いつの間にかユシカの隣を歩いていた生産者が照明をつけた。懐中電灯を持ってきていたが、生産者の灯りのおかげで使う必要がなかった。

 やがて祠が見えてきた。小さな赤い祠。ユシカの背よりも低い石造りの鳥居が、祠を守るように立ちはだかっている。今朝見た夢の中では、この鳥居はユシカの背よりもはるかに高くそびえ、黒く輝いていた。

 ユシカの隣に立つ生産者が、顔から一筋の青い光を発した。それが石の鳥居に触れると、鳥居の表面に見たことのある文様が現れた。夢の中であの岩に映し出されたものと同じだとユシカは思った。その瞬間、鳥居があった場所に、あの黒い岩が現れていた。

 岩の表面に現れては消える文様。ユシカはその物語を読んだ。

 


 

 広大な宇宙空間。星々が輝き、銀河のうねりが無限の暗黒を照らす。

 その暗黒の中、宇宙船ミズホは長い旅路の途上にあった。

 緯線直径580km、経線直径120km、総質量1930億トンのトーラス型宇宙船ミズホ。その中で暮らす人々の数、およそ850万人。彼らがいつから旅をしているのか、どこから来てどこへ向かっているのか、旅をしている彼ら自身もすでに知らなかった。

 宇宙船の制御はすべて人工知能が行い、人々は宇宙船の維持管理に必要な業務に煩わされることなく、また、生産とリサイクルの自動化によって、彼ら自身の生命維持に必要な労働からも解放され、各々が好きなことをしながら、平穏な日々を暮らしていた。

 ある時、ミズホの第7居住区で小さな異常が発生した。居住者のひとりに遺伝的変異が現れ、ライブラリへの接触が試みられた。ただし変異者に自覚はなく、ライブラリの内容を理解するのに必要な知識を持ち合わせていないため、ライブラリの開示が問題となることはないであろう。

 ミズホは4386万時間前にホームを出発した。目的地はカーディナル星系A-58ファーストベース。航行の起因はヒット。ファーストベースへの到着予定は1537万時間後。誤差プラスマイナス3万時間。ボールはアナハイム星系H-26を飛行中。セカンドはシリンダー型宇宙船ミカサ。アトランタ星系N-86を航行中。ボールへの到達まで1626万時間。誤差プラスマイナス1万時間。セーフの確立96%。

 


 

 目が覚めると、ユシカは祠の前で倒れていた。石の鳥居はこぢんまりとユシカを見下ろすように立っている。東から光照体が昇り始め、ユシカについてきた生産者もいなくなっていた。遠くに見える田んぼでは、生産者たちが田植えを続けている。

 ユシカが見たものは夢の続きなのか、それとも現実だったのか。いずれにしろ、ユシカにその意味を理解する術はなかった。

 おしまい。

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