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【読書感想文】すばらしい新世界【古典SFを読む】

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 【古典SFを読む】シリーズ第2弾は、ハヤカワ epi 文庫『すばらしい新世界[新訳版]』(オルダス・ハクスリー・著/大森望・訳)です。

 ディストピア小説の傑作として、ジョージ・オーウェルの『1984年』と並び称される本作ですが、僕はまだ『1984年』を読んでいないので、そこはまぁなんとも言えません。近いうちに『1984年』も読んでみたいと思っています。

 九年戦争と呼ばれる最終戦争を生き残った人類は、暴力を徹底的に排除することを至上とする社会を作り上げ、平和のためなら人間を生理的に作り変えることも厭わず、徹底的に人々の心身を管理し、暴力に繋がる感情を、あらゆる技術を使って消し去っています。

 遺伝的に数種類の異なる特徴を持った人間を作り出し、社会の運営に必要な階級を維持しています。召使や単純労働者といった目的のために遺伝的改造を施された人種が登場するあたりは、沼正三の『家畜人ヤプー』を彷彿とさせます。ヤプーがこの作品に影響を受けている可能性もありますね。「ソーマ」もほぼ同じような効果を持つ薬として出てきますし。

 そのユートピアから隔離された土地に「野人保護区」つまり自然の状態で生活する人間たちが暮らす場所がありました。迷信と感情と暴力が野放しの世界です。そこに、とある事情でユートピアからやってきて置き去りにされた女と、そこで生まれた息子がいて、とある事情で再びユートピアに連れ戻されます。

 野人の世界で迫害されて育ち、ユートピアに憧れて育った息子は、ユートピア人の女性に恋をしますが、全く異なる価値観の狭間で苦悩し、激情と道徳の葛藤に苛まれます。最後にはソーマの力で激情に流され、自らの行為に絶望して命を絶ってしまいます。このラストは、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』に通じる、若さが持つ不安定さと脆さを感じさせます。

 この作品は、単に人工のユートピアを否定し、人間本来の自然な営みを礼賛するというような図式では描かれていません。人工的に作り上げられた生活のすべてが醜悪なわけではなく、自然な営みがすべて美しいというわけでもありません。ユートピアが造られたのには相応の理由があり、その理由とは人間の本性に由来するものなのです。

 人間の本性からくる暴力がもたらした、絶望的な破壊への反動としてユートピアが作られたのであり、人がその本性の赴くままに生きることと、人工的に作り変えられてまで平和を維持しようとすること、どちらが正しく、どちらが間違っているというような、単純な話ではありません。どちらにも正しさがあり、どちらにも間違いがあります。

 人の生とは何か、人はいかに生きるべきか、人間とはどのような存在であるのか、そういった問いかけが重層的にちりばめられた作品だと思います。

 ということで、【古典SFを読む】シリーズ第2弾は、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』でした。次回、第3弾はいつやるかわかりませんが、お楽しみに!

 

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