あれはそう、小学6年生の夏だったか秋だったか季節はよく覚えていません。成長期に差し掛かった僕は、クラスのみんなの身長を追い越し、朝礼や体育などで列を作る時の並び順が、どんどん後ろに下がっていった、そんな時期のことです。
週刊少年ジャンプ、マンガの単行本、アニメ雑誌、朝日ソノラマなどの本と、ガンプラに小遣いをつぎ込んでいた僕は、慢性的な金欠状態にありました。そろそろDr.スランプの新刊が出るんだけどなぁ。今月は買えないなぁ。などと思いながら、自分の部屋で畳に寝転がってぼんやりしていました。
ふと、タンスの上に置いてある貯金箱に目が留まりました。父が慰安旅行で沖縄へ行った時のお土産です。厚紙で作られた筒状の簡単なもので、周りに沖縄の方言がいっぱい書いてあります。あの中にもうお金が入っていないことは承知しています。それでも、何かの間違いで百円玉とか残ってないかな。もしかしたら、全部使ったと思い込んでるだけで、少しは残ってるかもしれない。お金がないと、そんな妄想が沸き起こるものです。
おもむろに立ち上がり、貯金箱を振ってみます。期待したチャリンという音は鳴りませんでした。が、カサッと何か紙切れが入っているような音が。ん?何だろう。この時点では、何かのメモを入れといたのかなと思っただけでした。
ふたを開けて貯金箱を逆さに振ってみると、ななななんと、千円札がスポッと飛び出してきたではありませんか。一瞬、自分の目を疑いましたが、広げてみればそれはまごうかたなき千円札でありました。千円札!全く覚えがありません。いつこんなところに入れたんだろう?しかし千円札を目の前にした僕にそんなことはどうでもいいんです。これならDr.スランプとマイアニメも一緒に買えるぞ!気分はもうウッキウキなのであります。
ウッキウキのまま、僕はその千円札を握りしめて、我知らずスキップなど踏みながらルンルンで部屋を出ようとしました。まさにその瞬間。
ガンッ!!
頭頂部に強い衝撃を感じ、一瞬視界がブレました。激しい痛みに声も出ず、その場にうずくまりました。そして何が起きたのかを理解して、僕は笑いをこらえることができませんでした。
あまりの嬉しさにスキップしたせいで、部屋のドアの鴨居にしこたま頭をぶつけたのです。僕が今の実家の住居に入ったのは、まだ10歳かそこらの頃。ジャンプしたくらいで鴨居に頭をぶつけることなんてあり得ませんでした。しかしその時はすでに身長が160cmを越え、軽くジャンプしただけで鴨居に頭が届くようになっていたのです。
なんて間抜けなシチュエーションでしょう。思いがけず小遣いを手に入れたことで浮かれ、スキップしてドアの鴨居に頭をぶつけるなんて。我ながら間抜けすぎて笑えてしまいました。しかし頭頂部にはまだ激痛が。しばらく痛みと笑いのはざまを揺れ動きながら、その場にうずくまっていました。
それからしばらく、僕の頭の天辺には鴨居の幅で横長のたんこぶができていましたとさ。
おしまい。