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【第1回】短編小説の集い投稿作品 「おばあちゃんのカボチャ」 (A)


【第1回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 今回は時間もないのでサクッと短くまとめました。それでは早速どうぞ。

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「おばあちゃんのカボチャ」

 10月も下旬に入った頃、ユウコは妙な夢を見た。見知らぬ老婆にカボチャをもらうのだ。ジャックオランタンにするようにと言われて。本当は他にもいろいろあったような気がするが、ほとんど忘れてしまって、覚えているのはそれだけだった。

 その日、学校から帰ると、ダイニングテーブルに大きなカボチャが置いてあった。
 「お母さん、このカボチャどうしたの?」
 「ああ、おばあちゃんにもらったのよ。もうすぐハロウィンだから、ユウコちゃんにカボチャの仮面でも作ってあげたらって。ジャックオランタンのことよね」
 「おばあちゃんて、どこの?」
 「ほら、あの……あら?どこのおばあちゃんだったかしら。知ってる人だったのに、忘れちゃったわ。いやあね」
 笑いながら母は夕飯の支度をしている。ユウコは夢のことを思い出して不思議な気持ちになったが、母には話さなかった。
 「ユウコの頭と一緒くらいの大きさだな」
 からかい気味に言う父を、ユウコは睨み付けて怒った。わたしの顔はこんなに大きくない。
 
 翌日、そのカボチャはジャックオランタンになって、ユウコの部屋に置いてあった。中身がくりぬかれ、三角の目と、ギザギザした三日月形の口が開けられている。中にはLEDの照明が仕込まれていて、スイッチを入れると白熱球のような光を放った。これは父の案に違いない。こういう工作が大好きなのだ。
 夕食の後、父母に礼を言って、ユウコは部屋に戻った。ジャックオランタンのスイッチを入れて、天井の灯りを消すと、それなりに雰囲気が出る。じっくりと見ていると、まるでジャックオランタンがこちらを見返しているような気がしてきて、ユウコは照明のスイッチを切り、天井の灯りを点けた。
 
 それから数日、ユウコは自分の部屋にいる時、奇妙な視線を感じるようになっていた。最初のうちは気のせいだと自分に言い聞かせてきたが、勉強机に向かっているとき、マンガを読んでいるとき、ベッドに横になった時、いつでもジャックオランタンの視線を気にしてしまう。とうとう、ユウコはジャックオランタンをリビングボードに移すことにした。
 「だって、せっかくだからみんなで見てたほうがいいじゃない」
 そう言って、自分の部屋からジャックオランタンを追い出すことに成功した。
 
 そして10月の末、ハロウィン当日。食後にパンプキンケーキを食べ、ささやかなハロウィン気分を味わったユウコは、ジャックオランタンのいなくなった部屋で安らかな眠りについた。
 深夜。ベッドから起き出したユウコは、ジュースを飲みすぎたことを後悔しながら、トイレに向かった。自分の部屋に帰る途中、リビングのドアがわずかに開き、かすかな灯りが漏れているのを見つけた。父か母が、照明のスイッチを切り忘れたのだろうか。
 ドアを開けると、リビングボードの上でぼんやり光るジャックオランタンが目に入った。やはりスイッチを切り忘れて寝てしまったのだ。しょうがないな……つぶやきながら、照明のスイッチを切ろうとジャックオランタンに近づいた。くり抜かれた三角の目が、ユウコを見つめている。
 ふと何かを思いついたユウコは、リビングの照明を点けて自分の部屋に戻り、オレンジの色紙とハサミ、テープを持ってきた。色紙を三角に切り取り、それをジャックオランタンの三角の目にあて、テープで貼り付けた。
 「これでもう、睨まれないで済むわ」
 満足げな表情でリビングの灯りを消すと、ユウコは自分の部屋に戻り、深い眠りについた。
 
 翌朝。
 「お母さん!お母さぁーん!」
 悲鳴に近いユウコの叫びを聞いた母は、朝食の支度を放り投げてユウコの部屋に向かった。ベッドで上体を起こしたユウコの目には、まるでくり抜かれたような黒い穴が、ポッカリと深い闇をのぞかせていた。
 
 了
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 ホラーって、好きなんですけど自分で書いたことはないんですよね。なので、ありがちな展開しか思いつきませんでしたが、まぁこんなもんでしょう。人を怖がらせるのは、笑いをとるのと同じくらい難しいんですね。