ごくまトリックス

いらっしゃいませ。アニメ・子育て・雑文と、責任持てない与太話。あくまで個人のたわごとです。

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短編小説の集いに参加します。 ― 楽園喪失 ―

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 ギリギリ〆切に間に合ったかな。

 リンゴがお題なんだけど、「リンゴ」という言葉を無理やり使わなかった。

 あと、最初に書き終えた時点でカウントしたら字数が6000近くあって、削るのに苦労しました。小説っていうか、あらすじっぽくなった。なんかもういろいろアレなんだけど、〆切だし、「えいやっ」とぶん投げます。


【第0回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - Novel Cluster 's on the Star!

 
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 「楽園喪失
 
 アタルとエナは、”東の青い海”が見える場所で同じ日に産まれた。幼い頃からいつも一緒に遊び、狩りをし、果物を集めたりしていた。二人は兄妹ではなかったが、まるで兄妹のように仲が良かった。14才になった今もそれは変わらない。
 幼い頃は勝気なエナがいつもアタルの前に立って、大人しいアタルはその後ろをついて行くことが多かったが、今では二人の力や体格にも差が出てきて、アタルがエナをリードすることが増えていた。
 
 エナの父親は、彼女がまだ幼い頃、”西の白い谷”で狩りをしている時に魔物に襲われて死んだ。アタルの両親も、それぞれ時を異にして魔物に命を奪われた。それがどんな魔物かは未だ知られていない。アタルとエナは、エナの母親と妹を加えた四人で暮らしているが、彼らが属している集団は、全体がひとつの家族のようなものだったので、暮らしに困ることはなかった。
 
 この秋、エナたちは毎年訪れる”西の白い谷”の近くで暮らしていた。集団は、季節ごとに過ごしやすい場所を移動しながら生活している。エナの父の死以来、彼らは”西の白い谷”から少し離れた場所で過ごすようになった。魔物の正体は定かでないが、襲われた者は全身が紫色に腫れ上がり、それが誰であったのかわからないほどの姿になる。しかし必ず一人でいるところを襲われるため、集団から消えた者がその犠牲者であるとわかるのだった。
 
 ”西の白い谷”を離れたことで、採集できる食糧は減ったが、人々が飢えるほどではなかった。ただ、その場所でしか採れない果物があり、その味を好んだ人々は”西の白い谷”の恵みが失われたことを惜しんだ。エナたち母娘もまた、その果物を好んで食べていた。
 
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 ギズリムは、ある惑星の知的生命体によって開発されたバイオロボットである。彼の目的は、彼を作り出した存在、すなわち惑星ポリートの支配的生命体であるミートムの植民星を探すことだ。ミートムは肉体を持たず、その生命を維持するために肉体を持った他の生物に寄生する種族だった。そのため、物質的な環境の違いは問題にならないが、ある程度の知能を持った生物を必要とする。ギズリムが探しているのは、ミートムが寄生するのに適した生物が存在する惑星である。
 
 母星ポリートの時間にして、すでに2万年が経過していた。ポリートに住むミートムが、いまだその歴史を刻んでいるのかどうかもわからないほど長い期間である。ギズリムは、彼が乗る宇宙船の内部で完全な循環環境に組み込まれているため、宇宙船が破壊されない限り半永久的にその機能を維持できる。ロボットであるギズリムに、退屈や諦めという感情は起こらない。目的を達するか破壊されるまでは、飽くことなく機能し続けるのである。
 
 やがてギズリムはある惑星に辿り着いた。ポリートとは似ても似つかない環境だが、知能を持つ生物が存在していた。生活形態は、狩猟と採集を行いつつ、ある範囲内で移住を繰り返すものだった。文化の萌芽と呼べる程度の工芸や、装飾の習慣もある。ミートムの宿主として問題のない生物と言えるだろう。
 
 ギズリムは早速、この惑星の知的生命体にミートムが寄生できる環境作りを始めた。物質的に"希薄な"存在であるミートムは、寄生しただけでは宿主の行動に干渉できない。宿主をコントロールするためには、媒介となる生物を必要とする。ミートムはその媒介生物を通してのみ宿主を思い通りにコントロールできるのである。
 
 ギズリムは、進化の過程でこの生物の細胞に取り込まれたバクテリアの遺伝情報を加工することで、ミートムの宿主として改造する方法を考案した。問題は、その改造の過程で死に至る確率が高いことだったが、これ以上に有効な手段は見つからない。致死率を抑えられる方法も検討したが、それは前述の方法の致死率以上に、知能を失う確率が高かった。
 
 幸いにも、この生物の繁殖力と生息数は、高い致死率を補うに十分なものだった。多くの犠牲が出るだろうが、ミートムの移住を最優先の目的とするギズリムには問題ではなく、そもそも彼は犠牲という概念すら持たない。
 
 ギズリムと宇宙船には、ミートムの宿主となるべき目的の生物を、細胞レベルで直接改造することのできる機能も設備もない。そこで、化学合成した薬剤を投与したのち、特定の波長の電磁波を照射することで、細胞内に変異を起こす方法を取ることにした。しかし、ギズリムと彼の宇宙船は、この星の宿主生物を捕獲したうえで薬剤を投与するには脆弱すぎた。ギズリムが降り立った場所には、宿主生物が好む果実を実らせる樹が豊富に生えていたため、彼はその樹に薬剤を浸透させ、薬剤を含んだ果実を食べさせることにした。
 
  薬剤を吸収しただけでは、宿主生物の体に変化は起きない。ギズリムは、宿主生物が果実に警戒心を持つことを避けるため、薬剤の摂取と電磁波の照射の間隔を開けることにした。さらに、電磁波の照射は宿主生物が単独で行動している時を選んだ。そうして幾度かのテストを繰り返しながら、薬剤を調整した。
 
 薬剤の調整が最終段階に入った頃、宿主生物が訪れなくなった。同じ場所で実験を繰り返し、全ての結果が被験体の死に終わったことが、宿主生物に警戒心を抱かせたことは間違いない。だがこの惑星の環境下で頻繁に移動を繰り返すことは、宇宙船の著しい消耗に繋がる。ここでの実験が必ずしも成功を約束されているわけではないことを考慮すれば、この惑星を離脱し、他の星を探査するためのエネルギーを失うわけにはいかなかった。
 
 ギズリムがこの惑星からの離脱を視野に入れた計画を立て始めた頃、宿主生物が再びやってきた。雄が一体に雌が三体のグループだった。雌たちは、薬剤の浸透した果実を集めている。雄のほうはしきりと辺りを警戒しているようだった。
 
 これまでは宿主生物の警戒を避けるため、果実の摂取と電磁波の照射に間隔を置いていたが、今回の実験が失敗に終わればこの惑星を離脱するつもりだったギズリムは、このグループが果実を摂取すると同時に電磁波を照射することにした。
 
 やがて宿主生物のグループは木陰に座り、果実を食べ始めた。雄の個体はまだ周囲に対する警戒を緩めていなかったが、一体の雌に何度か促されて、立ったまま果実を食べ始めた。ギズリムは、彼らの体に薬剤が吸収されるのを待った。
 
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 エナたちは、狩りを装って密かにこの禁断の谷を訪れ、久しく味わっていなかった果物を堪能していた。実は紅く熟し、甘い芳香を放っている。甘酸っぱい果汁と歯ごたえのある食感。"西の白い谷"の魔物に対する恐怖は、この美味なる果物への欲求と、複数人でいれば襲われないだろうという希望的推測で覆い隠された。用心深いアタルは、この谷を離れるまで警戒を解くつもりはなかったが、エナに勧められて食べた果物の味は、しばしその警戒を緩ませた。
 
 ふいに、エナの母と妹が喉元を押さえながら苦悶に目を見開き、その顔を歪めながら突っ伏した。やがて袖から出た腕、うなじ、耳が紫色に染まって行く。驚くエナは二人の背を摩ったり叩いたり、半ばパニックに陥りながら手当てを試みるが、まもなく自身も激しい頭痛に襲われ、頭を抱えつつ草の上に倒れた。アタルもまた、突然の異変に驚き、この異変の原因を求めて周囲に目を凝らしたが、何もわからないまま、後頭部を殴られるような激しい頭痛に気を失った。
 
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 宿主生物のグループのうち、雌二体はこれまでと同様に失敗したが、残る雌と雄は、目的とする状態に変異したようだ。宿主生物の改造がこの段階まで進んだのは、これが初めてである。二万年の放浪の末、ギズリムはついに目的を達成しようとしていた。しかし彼の中には、何の達成感も、喜びも、感慨もない。ただ己の裡に刻まれたプログラムに従って、淡々と作業を進めるのみである。
 
 生体改造の最終段階は、ミートムが宿主の精神を制御するための言語システムを組み込むことである。この作業は、ギズリムが直接宿主生物に接触せねばならない。それは、彼が機能維持装置から離れることを意味する。つまり、彼は宿主生物の改造を終えると同時に機能を停止する。長い旅の終焉を迎えるのである。ギズリムは最後の準備を終えると、機能維持装置との接続を切り離し、初めて船外に出た。 
 
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 エナは、ひんやりとした草の上で目覚めた。上体を起こして周りを見ると、側に母と妹の遺体があった。全身が膨れ上がり、人の体とは思えない色を呈している。生前の面影はどこにも見出せない、変わり果てた姿がそこにあった。少し離れた所に、アタルが倒れている。彼の体には母と妹のような変化はなく、ただ気を失っているだけのように見えた。
 
 エナは、自身の内面が奇妙に変質していることに気づいた。彼女の目は、周りにあるものを見ていたが、心は何も見ていなかった。彼女の心からは、ほんの少し前まで感じていた喜びも、感動も閉め出されていた。彼女の心はすっかり閉ざされていたのである。
 
 その閉じた心の中で、稲妻のような速さで駆け巡る思考があった。彼女の目を、耳を、鼻を通して入ってくる情報を全て捉え、分析し、判断する思考。それが今のエナの心の全てだった。その思考が、視界の隅で蠢くものを捉えた。思考は最初、それを蛇だと思ったが、エナの記憶にある蛇とは異なる何かだった。細長く、うねるものではあるが、その体は銀色に光り輝き、体内が透けて見えるようだった。"蛇"は、同じく銀色に光る卵のようなものから這い出てくるところだった。エナの思考は、それを見ても何の恐怖も感じなかった。ただ、自分に向かって這い寄ってくるそれを、ぼんやりと眺めているだけだった。
 
 突然、エナの脳裏に閃光が走り、思考が爆発した。彼女が見ている”蛇”の正体、その目的、母と妹の死の原因、彼女自身の心、そしておそらくアタルの心にも起きたであろう変化。全ての出来事が、パズルを組み合わせるように一枚の絵を完成させた。同時に意識の奥底から、得体の知れない禍々しい衝動が湧き上がってくるのを感じた。それは彼女自身の中からやってきたが、彼女はそれが何かを知らなかった。
 
 エナは、初めて出会う感情、そのあまりに激しい衝動に恐怖した。そして恐怖と同じ強さで、愉悦が湧き上がってくるのを感じた。暴力、攻撃、破壊……力強いその衝動は、彼女の肉体を突き動かし、その口から絶叫を迸らせた。
 
 気がつくと、エナは手に石を握りしめ、”蛇”を叩き続けていた。すでにそれは原型を留めておらず、光を失った骸から紫色の体液を垂れ流している。エナの瞳からは涙があふれ、頬を伝ってしたたり落ちた。禍々しい衝動はすでに消え去り、彼女の心はまた別の感情、それまで味わったことのない虚しさで満たされていた。
 
 エナは立ち上がると石を手放した。草の上に落ちた石が鈍い振動を彼女の足に伝える。流れる涙を拭うこともせず、彼女はアタルの傍に行き、彼の体にすがって泣き続けた。
 
 アタルが目覚めると、顔や体を紫色に染めたエナが傍らで眠っていた。彼女も魔物の毒にやられたと思ったアタルは、エナの肩を揺すり、呼びかけた。目を覚ましたエナは、自分たちに起きたことをアタルに説明した。驚きながらも、アタルはエナが語ることを理解していた。彼の心もまた、エナと同じく根本的な変質を経ていたのである。
 
 彼らが倒れていた場所のすぐ先に、ギズリムの宇宙船があった。銀色に光る球体が、彼らの体と心を変質させた電磁波を出し続けている。アタルとエナは、自分たちの頭の芯でくすぶる鈍い痛みが、あの球体の影響だと感じた。
 「あれには触れられない。僕らがここを離れるしかないよ」
 アタルは、球体から発せられる何かが、自分たちの体に悪影響を及ぼしていることを直感的に理解していた。
 「”東の青い海”へ行きましょう。私たちが生まれた場所へ。そこから海を越えて行くの」
 エナは、自身を襲った激情にも関わらず、その目に理性の光を宿していた。
 
 アタルとエナは、”東の青い海”の海岸に佇んでいた。たった二人で、この先の新天地を目指すために。
 
終わり
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 久々に集中して書いたな。昨日までハッピーセットのアホみたいな記事書いてたから、落差が激しくて疲れたわい。
 
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追記:読みやすいように改行を少しいぢりました。