心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

悪夢 ―ストイコビッチがくるよぉ―

 しょーもない話ですが、聞いてください。

 舞台は会社です。といっても現実の職場とはかけはなれた環境で、郊外の幹線道路沿いに最近できた歯医者さん、みたいなモダンな建物です。
 ところがこの社屋が妙なことに、実家とよく似た造りというか間取りなんですよ。もちろん実家はそんなオサレな家ではなくて、築35年になろうかというくたびれた一戸建てなんですがね。
 登場人物は、ごくま、同僚、事務員、そしてストイコビッチ風の社長。現実にいる知り合いが一人もいません。女性の事務員さんは印章が薄くてよく覚えてないんですが、同僚は「頼りになる男」という印象だけが残っています。
 問題はストイコビッチ風の社長ですよ。夢の中で、僕はこの社長のことをあまり良く思っていなくて、社内をうろうろする姿を見ては心の中で「チッ…」と舌打ちしてました。あれ?現実と変わらないなぁ……
 やがて、このストイコ社長がおかしくなります。玄関じゃなくて、道路に面したガラス張りの壁を、前転しながら突き破って外に出ると、そのまま車に乗ってどこかへ出かけてしまいます。普通ならガラスの壁は全部割れて落ちそうなもんですが、夢の中ではマンガみたいに綺麗な穴が開いてました。
 で、いつの間にか会社に戻ったストイコ社長は、このくそ暑い中紺色のコートを着ています。そう、まるでテクニカルエリアに立つストイコビッチのように。あくまでストイコビッチ風ですけど。銀髪を綺麗にセットしたストイコビッチ風の外国人です。
 頼りになる同僚が、やばい、逃げろ、と言っています。とうとう本格的に社長がおかしくなってると。さっき突き破ったガラスの大きな破片を持って階段を上がってきます。この時点で僕の意識はもう現実寄りになっていて、二階の自分の部屋で寝てるんです。その部屋は完全に実家の部屋と同じです。
 逃げなきゃ、と思いながら、現実には寝ているので体はなかなか動きません。やがて階段を上がってきたストイコ社長が僕の部屋に入ってきます。その手に握られた鋭い三角形のガラス片を振り上げ……
 「はびょしょぼぁ!」みたいな、息を吸い気味の、声にならない変な声をあげて目が覚めました。心臓がものすごい勢いでバクバクいってます。隣で寝ている息子が、勢いよくあおむけになった僕にぶつかって、もぞもぞ動いています。はぁ~……大きなため息。深呼吸2回。嫁はスーピー寝ています。
 時刻は3時半。およそ1時間前の出来事。忘れないうちにと思ってこれを書いています。何でしょうかね。予知夢なら怖すぎるんですが。しばらく現実の社長の動きを警戒しながら仕事をすることになりそうです。