心は空気で出来ている

空気を読むな、呼吸しろ。

ひげゾンビ

 さて、ひげゾンビの話です。

 そもそもひげゾンビとは何か。ひげを生やしたもっさいゾンビのことではありません。死してなお、あたかも生きたひげのように存在するひげのことを指す、僕の造語です。

 男性のみなさんはご経験があるかと思います。とくに30過ぎたおっさん以降のあなた。身に覚えがありますよね。あると言ってください。これが僕だけに起こる異常な現象だなんて言わないで。

 詳しく説明すると、ひげゾンビは毛としてはすでに死んでおり、毛根が失われているにもかかわらず、皮膚に埋もれて抜け落ちないひげです。

 好んでひげを生やさない人は、だいたい毎日ひげを剃ると思います。ひげを剃ったばかりのあごは、うっすらとした青さが残るものの、だいたいつるっとしていて、とりあえずひげたちは皮膚の表面と同じ高さでカットされています。深剃りのシェーバーなんか使うと、皮膚面より低い位置でカットされて、さらに滑らかになりますね。

 しかしひげゾンビは、土台である毛根がないので、シェーバーやカミソリの刃に対する抵抗が弱く、カットされにくいという性質を備えています。つまり、土台がなくて踏ん張りがきかないので、刃から逃げてしまうのです。そうしていつまでもしぶとく生き残るひげゾンビですが、やがてひげ剃り後の滑らかな皮膚にポツリと顔を出して発見されることになります。

 発見されたひげゾンビは、毛抜きかピンセットで除去します。生きたひげを無理やり抜き取るのは相当な痛みが伴いますし、下手をすれば出血も免れません。ところが、ひげゾンビは毛根が死んでいるので、ほとんど抵抗なくスルリと抜くことができます。しかし意外と深くまで入ってて、抜いたひげゾンビは2~3mmの長さがあります。ということは、皮膚の厚みはそれ以上。ひげゾンビを抜き、その長さを見るたびに「ツラの皮って結構厚いんだな」と思います。

 もひとつ思うのは、ひげゾンビが他の生きてるひげに比べて太いということ。あの太さの秘密ってなんでしょう。ひげが死ぬ前兆として、他より太くなるという現象が起きるのか、それとも死んでから太くなるのか、あるいはもともと太いひげがゾンビ化しやすい傾向にあるのか。

 たかがひげ、されどひげ。確実に言えることは、毛抜きで抜こうとしてもなかなかきっかけをつかみにくいひげゾンビがするっと抜けると、妙にすっきりした気分になるということです。この感覚、嫌いじゃない。